いよいよ、アイリーンのところへ乗り込んで行くシャーロックとジョン。
シャーロック側とアイリーン側のシンメトリーな構成が素晴らしい部分です。
「ボヘミアの醜聞」ではまず馬丁に扮して偵察に行き、更に聖職者に変装して乗り込むのですが、今回は馬丁部分はカットですね。
<凡例>
赤文字:英語がよくわからない、解釈できない部分。
青文字:(私のとっての)新出単語
紫文字:感想、原作(正典)との比較など。
灰色文字:ト書き
日本語として滑らかにすることよりも、なるべく直訳して英語のまま理解したいと考えています。
(タクシー)
JW:OK, the smoking, how did you know?
それでだ、その喫煙の件だけど、どうやって知ったんだ?
SH:The evidence was right under your nose, John, as ever you see but do not observe.
証拠は君の鼻先にちゃんとあったよ、ジョン。相変わらず君は見てはいるのに観察してないんだ。
JW:Observe what?
観察って何を?
SH:The ashtray.
灰皿さ。
「You see, but you do not observe.」
(アイリーン宅)
IA:Kate? We’re going to have a visitor. I’ll need a bit of time to get ready.
ケイト、これから来客があるわ。仕度にちょっと時間がかかるわよ。
KATE: A long time?
長くかかりますか?
IA:Hmm, ages.
そうね、うんとかかるわね。
(221B)
JW:What are you doing?
何をやってるんだ?
SH:I’m going into battle, John, I need the right armour. No.
これから戦いに行くんだ。ふさわしい甲冑が必要だ。ちがう。
armour:鎧兜
(アイリーン宅)
IA:No.
ちがうわ。
KATE: Works for me.
私には十分素敵です。
IA:Everything works on you.
あなたには何だって素敵に見えるのよ。
※ここのwork は 服が服としてその目的を果たせる というようなことなんでしょうね。ところでworks for と works on ってちがうのかしら?
(タクシー)
JW:So, what’s the plan?
それで、どういう計画なんだ?
SH:We know her address.
我々には彼女の住所がわかっている。
JW:We just ring her doorbell?
彼女の家のドアベルを押すってこと?(=玄関から訪問するのか?)
SH:Exactly. Just here, please.
その通りだ。(運転手に)ここで停めてください。
JW:You didn’t even change your clothes.
お前、服だって着替えてないだろ。
SH:Then it’s time to add a splash of colour.
では、そろそろ、いろどりを加えるとしよう。
※splash of colour は色を散らすというような意味合いですよね。
(路地)
JW:Are we here?
ここでいいのか?
SH:Two streets away, but this will do.
2つ向うの通りだが、ここで十分だろう。
JW:For what?
何が(十分だって)?
SH:Punch me in the face.
僕の顔を殴れ。
(アイリーン宅)
KATE:Shade?
色合いは?
Shade:影、陰影、濃淡、色合い
IA:Blood.
血の色。
(路地)
JW:Punch you?
殴れって?
SH:Yes, punch me in the face. Didn’t you hear me?
そうだ。顔を殴れ。聞こえなかったのか?
JW:I always hear “punch me in the face” when you’re speaking, but it’s usually sub-text.
俺はいつも「顔を殴ってくれ」って聞こえてるよ。お前がしゃべってるとき、でもそれはいつもなら「言外に」だけどな。
SH:Oh, for God’s sakes!
ごちゃごちゃと・・うるさいな。(といってジョンを殴る)
JW:Oh! Ow!
(ジョン殴り返す)
SH:Thank you, that was, that was… OK, I think we’re done now, John.
ありがとう。それで、それで...十分だ。ここまでにしよう。ジョン。
JW:You want to remember, Sherlock, I was a soldier. I killed people.
お前は覚えておいたほうがいいぞ、シャーロック、俺は兵士だったんだ。人も殺した。
SH:You were a doctor!
医者だったろ!
JW:I had bad days!
ついてない日もあった。
(アイリーン宅)
KATE:What are you going to wear?
何を着るんですか?
IA:My battledress.
私の戦闘服を。
KATE:Ooh, lucky boy.
まぁ、ついてる坊やだわ。
ピンポーン
KATE: Hello?
はい?
SH:Oh, um, sorry to disturb you. Um, I’ve just been attacked. Um, and I think they, they took my wallet and, um, and my phone. Um, please, could you help me?
あの、すみません。お邪魔して。あの、私、たった今襲われて、あの、それで、私は彼らに、彼らに財布を取られて・・そしてあの・・携帯も盗られて、あの、どうか、助けてもらえませんか?
KATE:I can phone the police if you want?
よろしければ警察に電話しましょうか?
SH:Thank you, thank you. Could you please? Er, would you mind if I just waited here, just until they come? Thank you, thank you so much. Thank you. Oh.
ありがとう、ありがとう。お願いできますか?それで、あの、もしよろしければ、こちらで待たせていただいても、警察が来るまでの間、いいですか?ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます。どうも。
JW:I saw it all happen. It’s OK, I’m a doctor. Now, have you got a first aid kit?
私は起こったことを全部見ていました。だいじょうぶです。私は医者です。では、救急箱をお持ちでしょうか?
KATE:In the kitchen. Please.
台所にあります。どぞこちらへ。
JW:Thank you.
どうも。
SH:Oh, thank you.
ああ、ありがとうございます。
さて、救急箱が台所にあるんですね。うちは洗面所にあります。
シンメトリーな構成
・戦闘服をあれこれえらぶ
・二人ともある意味素のままを戦闘服とする
・彩りとして「血」を加える。シャーロックは殴り傷、アイリーンは血の色の口紅。
吹き替えで「add a splash of colour」の部分が「カラー(襟 collar)をつける」となっていました。日本の視聴者にとっては「襟」をつけるのが「聖職者」の変装だとわからない人もいるでしょうし、ましてや正典を知らなければ、なんのことだかかわからなくなるでしょうから、この訳も親切だったのかもしれません。
脚本に「色」「と「襟」をかける意図もあったのかもしれません。
事実、殴られて血の彩をするのとカラーをつけるのはどちらもこの台詞のあとにシャーロックがやってることなので。